TS2:ローゼン家(1)お嬢様、独立

2021年7月1日注釈:
古い記事を再掲載しているため、内容が現在にそぐわない部分があると思います。
この手の小説風記事は完全に黒歴史なんですが、あえて掲載しました。また幾つか画像がロストしているため、一部オリジナルから改変した文章になっております。どうぞご了承ください。

今回の記事はローゼン家です。試みとして妄想小説風の文体で
書いてみようかと思います。苦手な方は申し訳ありません。

マクスブルグの町の山手にある一軒の小さな住宅。
ここに引っ越して来たのは金髪の若い女性と茶色の髪の若い男性。
女性はカタリーナ・フォン・ローゼン。ええ、昨日までは。
彼女は今日から「カトリーヌ・ローゼン」と名乗る予定。

「なかなか良い家ね、シャルル。でも高かったじゃなくて?」

シャルルと呼ばれた男性は笑顔で答えた。
「大丈夫です。破格物件でしたからね。」
「貯金は2万シムオリオンで全部ですのよ?」
「大丈夫ですよ。どうか私にお任せ下さい、お嬢様。」
「……ねぇ、お嬢様という呼び方もやめて頂きたいのだけど。」
「はあ……。では、ええと。カトリーヌ様でよろしいですか?」
「”様”も却下ですわ。カトリーヌ”さん”で如何?」
「カトリーヌ……さん、ですか。」

困惑した面持ちのシャルルとは反対にカトリーヌは楽しそう。
「じゃあ朝食にしましょう。」
「え?ええと、簡単なものでよろしいでしょうか?」
「お任せするわ。」

「美味しいわね。これは何というお料理?」
「シリアルですよ、お嬢……カトリーヌさん。」
料理というほどの内容ではない事はあえて黙っておく。
「私もお料理や掃除のお勉強が必要ね……。」
「火を使うメニューに気をつけて少しずつ覚えれば料理はすぐにでも上達します。掃除は私にお任せ頂ければ……。」

立ち上がり食べ終えたの食器を片手にカトリーヌは軽く笑った。
「あなたが私と同居する条件は、仕事も家事も半分は私に回すというお約束のはずよね?大丈夫、ちゃんと掃除くらい覚えて見せるわ。」
「はあ……。」

仕事を探すために玄関先へ新聞を取りに行きながら、(決意が必要だったのはもしかして僕の方だったか……)と、シャルルは心の中で呟く。

カトリーヌは元々名のある家柄の子女。でも先日亡くなった両親が残した借金返済のために資産も爵位も手放したばかり。
シャルルは子供の頃にナイフボーイとして屋敷に入り、やがて主人に気に入られて従者になった青年である。学校にまで通わせてくれた亡き主人夫妻への忠誠心は高く、全ての使用人が去った後もただ一人家に残っていた。
「もう今までのようにお給金は払えなくてよ?」
シャルルにも暇を出すと言い張るカトリーヌに「他の仕事もしながら、お嬢様の独立をお手伝いします」と食い下がってここまで付いてきたのだ。

「校庭監視員」……教育者関連らしきの仕事の記事が目に留まった。昔から教職に憧れていたシャルルは満足げに頷き、この職に就く事に決めた。新聞を片付けて戻るとカトリーヌが退屈そうな面持ち。部屋にはチェスにテレビに読書と娯楽品を用意したのにと、シャルルは首を傾げる。

カトリーヌはにっこり笑って言った。
「さっきテレビで見たのだけど、枕叩きをやってみたいの。」
「枕叩き……ですか?」
「さあ、これを持って。」
「わぷ……!!」
枕を受け取った瞬間にシャルルの顔面に柔らかい物がヒットした。
「あら、ごめん遊ばせ。」
「……お返しさせて頂いてもよろしいんですよね。」
ころころと笑うカトリーヌに(多少の手加減はしたが)シャルルも枕をぶつける。

「これ、楽しいわ!」
「ちょっとばかり疲れますけれどね。」
(子供の頃から負けず嫌いでお転婆な方だったよな。)
シャルルは肩を竦めて苦笑した。

と、玄関でチャイムの音。
「知り合いもいないのにどなたかしら?」
「この地方では新しく引っ越して来た家に歓迎の挨拶に行く習慣があるんだそうですよ。たぶんご近所の方でしょう。」
「そうなの。素敵な習慣があるのね。」

玄関へ出たカトリーヌに挨拶した来客は「レイ・グラン」と「ヴィオラ・レイン」名乗る女性たち。
シャルルの言葉通り引越し歓迎の挨拶に来たようだった。

レイはカトリーヌより年上のようで家庭的で落ち着いた雰囲気、ヴィオラは健康的で明るい女性だ。カトリーヌもシャルルもこの二人とは上手くいくような予感がした。

雑談が途切れた時、レイが皆でキックバックをしようと言い出した。
「……ルールを知りませんわ。」
「簡単よ。ボールを落とさないように足で蹴るだけ。」
「足で……。」
(フットボールみたいなものなのかしら?)
……習うより慣れろ。四人でボールを蹴って過ごす午後となった。

警察官をやっているというヴィオラの足さばきは見事だった。レイもヴィオラほどではないとは言え、まずまずの腕前だった。
「私も少し体を鍛えた方が良さそうですわね。」
全く息も切らさず一度もボールを落とさないヴィオラを見てカトリーヌは呟いた。
(僕も……少しは鍛えよう。)
シャルルの方は言葉に出さず、小さなため息を飲み込んだ。

日暮れと共に振り出した雨に、四人は部屋の中へ逃げ込んだ。

「ねぇ、シャルルさんとの初めてのキスはいつ頃だった?」
「彼とはそんな関係ではありませんわ。」
「そうなの?一緒に住んでいるから、てっきり恋人なんだと思ったわ。」
そう言って笑ったヴィオラだが、今は恋人になっている同居人が最初は「そんな関係ではなかった」のを思い出す。
(この二人はどうなるのかしら?)


「レイさん、素敵なお召し物ですね。いつもどちらでお買い物を?」
「まあ有難う。この辺でお買い物するなら、沢山のお店を併設した中央マーケットやオールドタウンマーケットが便利よ。」
「そうなんですか。有難うございます。」
チェスの合間の世間話で周辺の情報収集をするシャルルだった。

夕刻、シャルルはそっと立ち上がり台所に向かう。
(皆さん女性だし、サラダでもお出ししようかな。)
6皿も作れば足らない人もお替り出来るだろうという算段。

しばらくしてシャルルが一同をテーブルへと誘った。

新鮮な野菜のサラダは最良のご馳走にもなりえるとテーブルについた女性たちは思う。そして歓談もまたご馳走の一つ。
「そういえば近所で幽霊の噂を聞いたんだけど。」とヴィオラ。
少し考えた後、レイがそれに答えた。
「両親が事故死した子供が私の養子になったのだけれどね。亡くなったご両親の霊が出るらしいという話を私も聞いたわ。」

シャルルが言葉を選びながら会話に参加する。
「夜は神秘的な話を生み出すものですからね。亡くなった方はお気の毒ですが、お子様の幸せのためにも安らかに眠っていて欲しいものです。」
「そうね……。」
(……私のお父様お母様にも安らかに眠っていて頂きたいわ。折角もう苦労も悩む事からも開放されたのだものね。)
生前心労も多かったであろう亡き両親を思い、カトリーヌは少しだけ目を閉じた。

やがて時は過ぎ、来客たちは帰って行った。
「静かだな……。」

来客を見送った後、蛍の飛び交う玄関先にシャルルは腰を下ろた。
初めて知らない土地に来た夜。寂しさが皆無なわけもなく。気の強いカトリーヌはけして口に出さないが、両親を亡くしたばかりの彼女はシャルル以上に寂しいはずだ。

「仕事が起動に乗ったら少し庭に手を入れて、バーベキュー台を買って……友達になった人たちを招待しよう。友人が沢山いればお嬢様も僕も寂しくなんてならない。」
蛍で倍の数に見える星空を見上げ、新しい計画を立てる。昨日を悲しみ、今日を憂いるよりは、まだ見ぬ明日に期待したい。
そのために……明日からの仕事に備えて入浴して休まなければ。彼は立ち上がり部屋に戻った。


「お嬢……カトリーヌさん、まだお休みになられないのですか?」
「ええ、そろそろ休ませて頂くわ。ねぇ、シャルル。」
「はい?」

「あなたは素晴らしいパートナーだわ。」
「恐れ入ります、お嬢さ……カトリーヌさん。」
「その呼び間違いがなくなったら、100点満点を差し上げるわよ。」
いつものようにクスクスと笑ってカトリーヌは階下の寝室へ向かった。

残されたシャルルは風呂場に向かいながら呟く。
「どのくらい減点されているのかな。」
今日一日だけでも何度も「お嬢様」と言いかけたような気がする。

(この浴室ももう少し広く改装したいな。お嬢様の寝室には専用バスをつけて差し上げたいけれど……地下だしなぁ。)
湯船につかると、もう減点のことは忘れてしまっていた。

「結構良いベッドね。」
こちらは寝室のカトリーヌの独り言。
「無理してないかしら、シャルル。もう私は”お嬢様”じゃないんだからもっと厳しく接して下さっても良いのに。」
自分が世間知らずなのは百も承知。だけど怖がっていては雛鳥も永遠に飛べないまま。だから飛ぶために知らない町に住むことを彼女は選んだ。頼る人が周りにいれば頼ってしまいそうになるから。
「強くなりたいのよ、私。」
昔、ローゼン家を興した先祖は大層な女傑だったと聞く。彼女はローゼン直系の血を受けつぐ最後の一人だ。誇り高く、強かでありたい。だからシャルルにも「頼りっぱなしにはならない」と決めていた。

「私もお仕事を探しましょう。お料理やお掃除もお勉強もして……。」

(だから安心して下さい。天国のお父様、お母様。)

「もう少し頼って下さって良いのに。やっぱり頼りないのかな、僕は。」

近年従者に上がったばかりだった若い自分では、古くから仕えていた家令や執事に及ばないのは確かだ。それは分かっている。それでも今、自分がここにいるのは最後までカトリーヌに仕えようと心に決めたからだ。
「強くなろう。もっともっと色んな事を覚えよう。」
せめて彼女がこの地で本当の意味で独立出来るようになり、いつかは伴侶と出会い幸せになれる時が来るように。


(お嬢様は必ずお守りします。どうか旦那様も奥様もご心配なくお休みくださいませ。)

二人のそれぞれの誓いをカトリーヌの亡き両親はどう聞いただろう?
こうしてマクスブルグでのカトリーヌとシャルルの物語は始まった。

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この記事はあとがき的な文があったのですが、その部分はロストしたため割愛しました。
ローゼンはドイツ姓なので、カタリーナ辺りが妥当な名前です。でもシム作成の時に「この子はカトリーヌにしよう」と決めてしまったので、そのまま「カトリーヌ・ローゼン」に。シャルルはカトリーヌに合わせてフランス名にしたんだったと思います。

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