TS2:ローゼン家(2) 日常というもの

2021年7月1日注釈:
古い記事を当時のまま再掲載しているため、内容が現在にそぐわない部分があると思います。
ご了承下さい。

ここはマクスブルグのルアン通りにあるローゼン家。この区画の朝はシャルルの起床で動き出す。
今日は初出勤。昨日の疲れは取れていなくても遅れるわけにいかない。シャルルは几帳面にベッドを直し、着替えて階上に向かった。

「と、もうこんな時間か。」
カトリーヌが起きてくる前に出勤時間が来た。

「シリアルを作っておきました。お召し上がり下さい。」と、短いメモを残し、シャルルは塗装の剥げた送迎車に乗り込んだ。

カトリーヌが目を覚ましたのは午前9時過ぎだった。
「寝坊してしまいましたわ。」
階段を上がると台所にはシャルルの残したメモがあった。

「有り難く頂きます。……それにしてもシリアルは美味しいわね。見たところ牛乳を掛けるだけみたいだし、次は自分でも用意してみようかしら。」
そう呟いた後(早く仕事を探さないと独り言が増えそう)と、カトリーヌは思った。

食器と食べ残しを片付け、着替えて外に出てみる。
少し前に玄関先で物音がしたのだが人影はない。インターホンも鳴らなかったし、気のせいだったのか。……と、入居前に不動産屋から貰った説明書の内容を思い出す。マクスブルグでは定期的に光熱費の請求が郵便で来るはずだった。

郵便受けを覗くと案の定、「請求書」と書かれた封書があった。
「こういう事も自分でやって行かなければ、ね。」
カトリーヌは送金の手続きをしながら呟いた。

この町では新聞は休みなく毎日届けられるらしい。仕事を探してみたが、自分に向いていると思う物はなかった。
(まさか新聞で犯罪者の募集まであるなんて……。)
ため息をつき新聞をリサイクルに回した後、カトリーヌは本棚から一冊の書籍を選んで読み始めた。仕事が決まるまでの間も遊んでばかりいる訳にもいかない。掃除に料理……生活するのに必要な物は仕事に関連していなくても覚えておいて損はないのだ。

“掃除は汚れが少ないうちにする方が効率が良い”……納得。
(今夜は入浴した後に掃除もしましょう)とカトリーヌは思う。

読書に疲れた後、カトリーヌはふと荷物の中にイーゼルと絵の具が入っていた事を思い出した。芸術好きの母親が使っていた品だ。キャンバスは……と探してみると、一枚だけ新しい物があった。
「私に上手く描けるかしら。」

カトリーヌは子供の頃から絵を見るのは好きだったのだが、絵画を本格的に習ったことはなかった。思うようには描けないが、絵の具をキャンバス上に塗っていくのは楽しい。

「カトリーヌさん、ただいま帰りました。」

帰宅したシャルルは「今日は言い間違えなかった」と満足そうな笑顔だったが、カトリーヌは別の事に気を取られていた。
(シャルル、随分変わった服でのお仕事なのね……。)

日が落ち暗くなってきた頃、カトリーヌは筆を置いた。
小腹が空いたので朝読んだ本の中に簡単に出来ると書いてあった冷凍食品を作ってみることにした。

火に注意さえすれば本当に簡単な調理方法だ。

「次はもう少し難しいのに挑戦してみたいわ。」
もう少し色々出来るようになれば、シャルルの負担も少なくなる。

……ソファで転寝してしまった人の良い同居人を起こさぬようにそっとカトリーヌは食事を続けた。

入浴後、彼女は本に書いてあった効率の良い掃除方法を試してみる。

屈んでの作業は疲れるが、家の中を心地よく綺麗に保つために掃除は必須だ。今まで家を綺麗に保ってくれていた使用人たちに対して、カトリーヌは感謝と賞賛の思いを抱かずにはいられなかった。給与を貰っての仕事ではあっても楽な作業ではないのだ。
「お金を払っているからやって貰って当然だという考え方は、たぶんよろしくはないわよね。」
今までの世界が如何に狭かったのか少しわかった気がする。だがさらに色々な事を知らなくてはならないのだろうと、彼女は思う。

「シャルル、疲れているのなら先にお休みになっては如何?」
いつ起きたのかチェスをしているシャルルにカトリーヌは声を掛けた。

「いえ、昇進するには倫理能力も必要ですので少し練習を……」
「倒れてしまったらお勉強した意味がないんじゃないかしら?」
そう言われてはシャルルも反論出来ない。
「そうですね……。お言葉に甘えて今日は休ませて頂きます。」
「ええ、お休みなさい。」
「お先に失礼します。」

「かっこ悪いよなぁ、もう。」
地下にある自室に戻ったシャルルはうな垂れる。

うっかり居眠りした姿を見られた上に、先に休むようにカトリーヌに諭されてしまうとは。だが、心底疲れているのも事実。そう言えば今日はカトリーヌとは会話らしい会話も出来なかった。
「明日は、もっと頑張ります。」

カトリーヌは家の中の掃除をして回った後に自分も休む事にした。
狭い階段を足音を立てないように下りていきながら思う。
(やりたい事、やらなければいけない事、一日で出来る事っていうのは実は少ないのね。)
「明日も良い一日でありますように。」

小さく祈りを捧げ、カトリーヌも眠りに落ちた。

ささやかな一日が無事に終わった。

あとがきっぽい物。

前回に続き、ローゼン家の記事は小説調で書いてみました。ごく平凡な一日の記録です。
ゲーム中はこういう事件やイベントがない日が多いですからね。
普通の一日は記事にしてもドラマって全く起こせないです(^^;。

でも読む分にはそういう普通の日常記録は嫌いではないです。
嘘八百の記事も楽しくて良いけど、「ああ、あるある」と頷いちゃうようなプレイ日記の方が親近感沸くんですよ。
まあ、その辺は私の嗜好なんでしょうね。

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